ベジタリアニズム (vegetarianism) とは、健康、道徳、宗教等の理由から動物性食品を排する主義・思想のことである。幾つかの公式な団体(後述・ベジタリアンの分類参照)では、菜食を中心とした食事を実践する人々の総称がベジタリアンと定義されている。菜食だけ、菜食でも球根などの排除の有無や、卵と乳製品を摂ることの有無などに応じて様々な分類がある。
アメリカ栄養士学会の定義によると『ベジタリアンとは、動物性食品を避け、穀物、豆類、種実類、野菜、果物を中心に摂る人』である。ベジタリアンは摂る食物により名称と定義がなされている(ベジタリアンの分類)。
国によってはベジタリアニズムはポピュラーな選択肢である。インドでは国民の31%がベジタリアンである[1]。 その他にアジアでは台湾が10%。欧州のイギリスで2000年の調査では、国民の9%がベジタリアンである。同年の調査でカナダでは成人の約4%がベジタリアンである。[要出典] しかし、これらは合衆国の2000年の調査で、成人の約2.5%が肉類や魚類を一切摂らないベジタリアンというが統計があるが、2.5%の内、9.4%をラテン系が占めているという誤統計が考えられる内容も加わっている例などがあり、正確性は不明である [19]。
元々ベジタリアンという言葉は、1847年9月30日の英国ベジタリアン協会[2] の設立の際にラテン語 Vegetus(活気のある、生命力にあふれた)をもとに英語の野菜 (Vegetable) の単語とかけて作られた言葉である[3]。それだけでなく、禁酒も含んだ食生活全般の節制を指した。当初は、この活力ということが強調され倫理的側面を持っていなかった。後にベジタリアン協会は、動物実験や動物を殺傷して生産される絹や革製品に反対するなど、社会全般の改革運動を奨励するようになる [4]。日本では明治時代に菜食主義と訳された。
紀元前のギリシャではオルペウス教の輪廻思想によって、動物と人間は同等である為に菜食を実践した。当時、菜食主義者は古代ギリシャの哲学者で菜食主義者であったピュタゴラスにちなんで、ピュタゴリアンと呼ばれていたが[5]、野菜のベジタブルと語呂の良いベジタリアンがこれに取って代わることになった。
精進料理は倫理的な戒律を守るという意味が元である。
[編集] ベジタリアンの分類
ベジタリアン発祥の地である英国の、世界で最も歴史ある菜食団体であるベジタリアン・ソサエティーや、国際ベジタリアン連合、日本ベジタリアン協会は、ベジタリアンを菜食だけ、または菜食に加えて本人の選択により卵と乳製品を摂る人々をベジタリアンと定義し、動物肉(牛肉・豚肉・鶏肉など)・魚介類を食べる人々はベジタリアンとしていない。
また、マクロビオティックは完全に動物性を排した食品の生産流通[6][7]までが組織化されているように、原則としては動物性食品を食べない。欧米ではじまったベジタリアニズムでは後述するように卵や牛乳を許可する場合がある。一方で、マクロビオティックでは基本的には動物肉だけでなく卵や牛乳を不可としているが陰陽調和の思想によりそれらを許容することがあったり、身土不二の原則により手で捕れる程度の魚介・小魚を許容したり、欧米のベジタリアニズムとは違う思想を持つ[8][9][10]。
植物以外の可食物による主なベジタリアンの表 名前 | 動物肉・魚介類 | 卵 | 乳製品 | 蜂蜜 |
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ラクト・オボ・ベジタリアン | × | ○ | ○ | ○ |
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ラクト・ベジタリアン | × | × | ○ | ○ |
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オボ・ベジタリアン | × | ○ | × | ○ |
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ヴィーガン | × | × | × | × |
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世界で最も歴史ある菜食団体である英国ベジタリアン・ソサエティーや、国際ベジタリアン連合によると、ベジタリアンは、鳥獣の肉、卵、魚介類及びそれらの副生成物(ラード、ヘット、ゼラチン、肉エキス、鰹節・鰯・エビ等の出汁、魚を殺傷して得た魚卵等を含む)が含まれるものを口にしない人々と定義されている[11][12]。
またベジタリアンの中には食物の選択にとどまらず、開発に動物実験を要した薬品や化粧品などの使用を避け、動物を殺傷して得られた製品(皮革製品・シルク・ウール・真珠・珊瑚等)を身につけないといった習慣を選び、動物の搾取を極力避ける者もいる。
下記は、国際ベジタリアン連合や日本ベジタリアン協会が定義するベジタリアンの分類である[12][13]。
- ラクト・オボ・ベジタリアン (Lacto-ovo-vegetarian) 乳卵菜食
- 乳製品と卵は食べる。
- ラクト・ベジタリアン (Lacto-vegetarian) 乳菜食者
乳製品は食べる。チーズは乳製品であるが、牛を屠畜して胃を取り出して消化液を集めたレンネット(凝乳酵素)を使用して作成されたものは食べない。
- オボ・ベジタリアン (Ovo-vegetarian) 卵菜食者
- 卵は食べる(鳥や魚介類などの違いは問わない)。無精卵に限り摂る人もいる。
- ヴィーガン (Vegan) 純粋菜食者 完全菜食主義者
- 乳製品、蜂蜜等も含む動物性の食品を一切摂らず、革製品等食用以外の動物の利用も避ける人々。ヴィーガンは、20世紀半ばになってVeg (etari) anを短縮してつくられた造語である。
- ダイエタリー・ヴィーガン (Dietary Vegan)
- ヴィーガンと同様に、植物性食品の食事をするが、食用以外の動物の利用を必ずしも避けようとしない。日本語の菜食主義者のイメージは、むしろダイエタリー・ヴィーガンに近いと思われる。
- ピュア・ベジタリアン (Pure-Vegetarian)
- 西洋では主にヴィーガンと同義で使われるが、インド社会においては後述するラクト・ベジタリアンかつラクト・オボ・ベジタリアンでない(乳製品は摂るが卵を食べない)人々を言う。
- オリエンタル・ベジタリアン (Oriental Vegetarian) 仏教系の菜食主義者
- 菜食主義であるが、五葷(ごくん。にんにく、にら、らっきょう、ねぎあるいはたまねぎ、あるいは浅葱)を摂らない。食用以外の動物の利用を必ずしも避けようとしない。
またベジタリアンの要素は満たしているものの、国際ベジタリアン連合が紛らわしい用語としているものにフルータリアンがある。
- フルータリアン (Fruitarian) 果食主義者、果物常食者
- ヴィーガン (Vegan) との違いは、植物を殺さない食品のみを食べること(リンゴの実を収穫してもリンゴの木は死なないが、ニンジンは死んでしまう)。収穫しても植物自体を殺さないという考えに基づいて食物を食べる人々。果物、トマト、ナッツ類等、木に実り植物自体の生命に関わらない部分を食べる。より厳格に熟して落ちた実しか食べない人々もいる。
下記は、ベジタリアン発祥の地であり、世界で最も歴史ある菜食団体である英国ベジタリアン・ソサエティーや、国際ベジタリアン連合、日本ベジタリアン協会がベジタリアンと定義しない人々(動物・肉、鳥、魚・甲殻類などを食べる)のグループである。 [14][15] 国際ベジタリアン連合では、定義を混乱させる用語として[16]、ベジタリアンではない人々をスード・ベジタリアン(Pseudo-vegetarian:擬似ベジタリアン)と定義している[17]。 国際ベジタリアン連合(日本語版)では、紛らわしい用語として説明されている[18]。
ベジタリアンに準ずるグループ(スード・ベジタリアン)の主な可食物の表 名前 | 動物肉 | 皮・油・血 など (肉以外の動物食品) | 卵・乳製品 | 魚介類 | 植物 |
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ノンミートイーター | × | △ | ○ | ○ | ○ |
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ホワイト・ベジタリアン | △ | ○ | ○ | ○ | ○ |
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セミ・ベジタリアン | ● | ○ | ○ | ○ | ○ |
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ペスクタリアン | × | × | △ | △ | △ |
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マクロビオティック | × | × | × | × | △ |
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- ノンミートイーター (Nonmeat-Eater)
- 牛・豚・鶏などを食べない非肉食者。卵・乳製品・魚介類は食べる。
- ホワイト・ベジタリアン(White-vegetarian)
- レッドミート(牛、豚、羊などの獣肉)を避け、ホワイトミート(鳥肉、魚介類)だけを摂る。
- セミ・ベジタリアン (Semi-Vegetarian)
- 世間一般の人より少ない肉を食べる。フレキシタリアンとも呼ばれる。
- ペスクタリアン (Pescetarian)、ペスコ・ベジタリアン (Pesco-vegetarian)
- フィッシュ・ベジタリアンとも呼ばれ、工業的に作られた食品を避ける点がベジタリアンと違う。野菜や魚は天然のものを食べ、卵や乳製品も近代的畜産でなければ食べる。
- マクロビオティック (Macrobiotic)
- 有機栽培や地産地消などがテーマに含まれており、他とは根本的な発想がやや異なる。詳細はマクロビオティックを参照。
これらのスード・ベジタリアンを指す用語についても、ベジタリアニズムを語る上で無視はできない。
インド料理の多くはベジタリアン(特にラクト・ベジタリアン)用に作られている。また仏教文化から発達した精進料理もベジタリアン料理の一種である。台湾等では素食(「粗食」ではない)と呼ばれる。ちなみに精進料理でニンニク、タマネギなどを使わないのは、俗にそれらが「精をつけ情欲を増大させる」ためと説明されることがあるが、本来の意義とは違う。そうした球根類は植物の「肉体」であり、動物の場合と同様に損なうことが避けられるからである。この考えによれば、植物の枝葉や根は動物の体毛や爪にあたるもの、ということになる。切られてもまた生えてくるので、食べても構わないとされる。加えて完全な菜食を続けると、人によっては刺激が強く、そのような物を受け付けない体質に変化することがあ� ��のも理由に挙げられる。アジアン・ベジタリアン (Asian-vegetarian) と呼ばれる、主に仏教系の影響のあるベジタリアンの場合には、野菜の中でも五葷は一般に食べない[19]。
宗教改革以前からあるキリスト教の教派には、金曜日などの特定の曜日・四旬節・待降節にベジタリアン的な料理を作り、断食を守る伝統がある。これを小斎・斎(ものいみ)などと呼ぶ。もっとも厳しい節制においては、カトリックでは肉、卵、乳製品が禁じられており、正教会では更に魚肉、オリーブ油(または植物油全般)も禁じられる。しかし、肉では無く魚介であるという解釈のもとにベネズエラではカピバラ、アイルランドではカオジロガンなど水辺の鳥獣を食べてもよいとする例はあった(例として中世料理を参照)。またカトリックにおいては20世紀後半から、この趣の節制は大幅に緩和された。節制の時期等に関しては、其々の教派の項目及び教会暦を参照のこと。
ベジタリアニズムは以下のような動機によって選択される。
肉食を否定する主張には大きく2種類あり、過剰な肉の摂取を戒める主張と肉食そのものを否定する主張がある。この2つを混同している傾向も見られ、これが議論をより混乱させる要素となっている。健康のためと称しながらも、突き詰めれば別の理由に立脚している場合もある。ベジタリアニズムが単純な理由に拠らない活動であることにも絡んで、その各々の信奉者・実践者によって主張・様式もまちまちである。
[編集] 宗教
インドは不殺生戒(ア・ヒンサー)思想の発祥地であり、遅くとも2千年以上前から菜食を奨励する宗派が存在した。インドの不殺生における間接殺の回避は、ジャイナ教のように、耕す際に虫が死ぬ農業や、火中に虫が飛んで入ることを回避するため火をたいて料理することも拒否することに加え、植物の殺生を避けるため、球根類の野菜を食べることも回避するなど、肉食だけを避けるというものではない。
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